「・・・殿?」 「・・・幸村さん」 見つかっちゃった、と言って緩く笑った彼女の目は赤かった。 永遠に は少し前にこの上田城に来た、幸村と同じ歳の小さな女だった。女、と言うより少女だが。 来た、というより連れて来られた、に近いかもしれない。 武田領の何もない野原で倒れているのを幸村の優秀な忍び(文句も多い)猿飛佐助が拾ってきた。 それが普通の少女や女なら佐助は迷わず切り捨てていただろうがその少女は面妖な着物を着、この時代ではありえないぐらいにその柔らかな四肢を投げ出し倒れていたのだった。 よくわからないものを拾った佐助は一応その少女、を幸村の元に連れていった。それにに興味を持ったのだった。この時代には相応しくない綺麗さを持った少女を。 佐助の主は予想通りを見て真っ赤になり破廉恥な!と叫び、その声のせいでは目を覚ました。 (だ、だれ!?っていうかここどこですか!?) それがの第一声だった。 それから質問したりされたりで時間は経ち、は未来から来たと言った。信じられない話しだが信じるしかない。が持っていた未来のモノ、を見せてくれたからだ。 そしてを我らが大将、武田信玄に引き合わせた。の時代にも信玄公の名は知られているらしく、はガチガチに緊張していた。そんなを見て信玄公は笑い、幸村にの面倒を見てやれと言った。そうしては上田城に住むこととなった。 愛想の良かったはすぐに城の者達と仲良くなった。佐助ともよく喋り、忍術を教えろと迫ってきた事もある。幸村とも仲良くなったが幸村の肩や手に触るとやはり幸村は破廉恥と叫んだ。なかなか笑わない幸村にが脇腹をくすぐった事もある。勿論破廉恥!と叫ばれたわけだが。 そんなわけで明るいはみんなから愛され楽しく毎日を過ごしていた。いつも笑顔の絶えないを見て幸村達も自然と笑顔になった。 城の者が寝静まった夜、幸村は自室を出て庭に面した廊下を音を立てないように歩いていた。寝付けなくて水でも飲みに行こうと思い廊下をひたひたと進んで行った。 そして廊下の先に人が座っているのを見つけ、こんな時間に一体誰だろうと思いその人影に近づいた。そこにいたのはだった。名前を呼ぶと幸村の名前を呼び返したの目は真っ赤だった。 「殿・・・!?一体、」 目を腫らしたを見て何があったのか分からなかったがいつも笑顔のが泣き腫らしているのを見て幸村は余程の事があったのだろうと思った。 「なんでもないです、大丈夫ですよ」 そう言ったはまた緩く笑った。しかし幸村には辛そうに見え、ほって置けない、と思った。 「何か、悩みなどがあるようでしたら某が聞くでござる」 「や、大丈夫ですって幸村さん!幸村さんは全く心配性なんだからー!」 「・・・しかし」 「ほら、早く部屋に戻らないと!明日も朝から鍛練なんでしょう?」 「殿」 「朝起きれないとまた佐助さんに怒られますよ?布団引っぺがされて朝ごはん無しになっ「・・・殿、泣いてるでござる」 「へ・・・?」 そっと頬を触ると温かい液体が手に触れた。そこでは泣いていた事を知った。 「わ、いつから?恥ずかしい!幸村さん見なかった事にしてくださいよ!」 「わ、わかった、見なかった事にしておく!」 幸村も驚いた。が泣くところなんて見たこともなかったしまさか泣くなんて思わなかったからだ。 「・・・あのね、幸村さん、私怖いんです」 突然のの話しに幸村はを見たけれどはじっと庭を見ていた。 「私の居場所はここじゃないし、やっぱり元の世界に帰りたいとは思うんです、でも・・・」 「でも・・・?」 「でも・・・こっちの世界の人達と仲良くなって・・・お館様に佐助さんにお城の人に、幸村さん・・・」 「・・・」 「だから、だんだん帰りたくなくなっちゃって」 あはは、と笑いながらこちらを向いたの顔はやはりまだ曇っていた。 「ダメですね!私こんなんじゃ!」 「そ、某は!」 気付いたら口が勝手に動いていた。はぽかんとした顔で幸村の方を見ていた。 「某は、全然かまわないでござる!勿論、お館様も佐助も城の者達も殿の事を好いておられる!だから、いつまでも此処に・・・!!」 「幸村さん・・・」 ありがとうございます、と言ったの顔はいつもの笑顔だった。 「ありがとう、幸村さん」 |