「っ・・・ぅう・・・」 「・・・おまえ、何してんの?」 私が放課後の教室でこっそり泣いてたらガラガラと不躾にドアが開けられた。 ドアを伏せていた腕の隙間から見て、そこに立っていたのは。 「ア、ベ・・・タカ、ヤ?」 「そーだけど。フルネームで呼ぶ意味がわかんねーよ」 ハァ、とため息をついてアベは自分の席に向かい机の中をごそごそ漁っていた。 「・・・忘れ、もの?」 「あぁ、」 「そっか・・・」 気まずいなぁ、でもこんな場面に出くわしたアベの方が気まずいと思ってるんだろーなぁ・・・。 それでずび、と鼻を啜るとがさごそ鳴っていた音が止まった。 帰ったかな?と思って顔を上げると目の前にアベが立っていた。 (正確に言えば見下ろされてた、だけど) 「泣いてんの?」 「見て、わかるで、しょ」 「・・・」 無視かコイツ。もう目も鼻の頭も赤い所を見られているから顔は伏せずにアベを見た。 「忘れものあった?」 「あった」 「そっかよかったね、じゃ、また明日ね!」 と一気に、しかも早口でまくし立て最後にトドメと言わんばかりにニッコリ笑った。 今の私には最高の笑顔で。 ようするに、かまわないでさっさと出ていけ、という意味を込めて伝えてみたんだけど。 きっとアベは空気読める、のKYだろうから何も言わずに出て言ってくれるだろう。 追い出して悪い、という意味を込めてせめてアベが教室を出ていくまでは最高な 笑顔で見送ってやろうと思いアベをニッコニコしながら見ていた。 さぁさぁ!私なんかほっぽらかしてさっさと部活行け!! 「・・・気持ち悪いから笑うなよ」 KYだ。空気読めない、のKYだ。いや、アベの事だから空気読まない、のKYか? どっちにしてもたちが悪い。 「アベってたまに殴り飛ばしたくなる」 「褒め言葉として受け取っとく」 「ほめてねーよ」 何私アベと漫才してんだ。 「だーからさ、早く部活行きなよ。水谷とか待ってるよ」 「今休憩時間だし」 「・・・」 このKYやろーめ。 さっきから私が体よく追い出そうとしているのに気付いているのかいないのか。 ちょっと顔がいいからって、調子のるなよアベタカヤ!! なんて言えるはずもなく、相変わらず見下ろしてくる(みくだしている、でも正解かもしれない) 私はアベを遠慮なく睨み付けた。 「んな赤い目した奴に睨まれても怖くねーよ」 「アベうざい・・・」 私にメデューサみたいな力があれば!アベを石にして廊下に転げ出してやるのに。 「おまえ、さぁ」 「なによ」 「フラれたんだろ?」 「な、んで」 「見たから」 みた、見られた。フラれる瞬間を。 「そっかぁ・・・見たんだ」 だいたい一時間前の事を思い出してしまって目の奥が熱くなった。 ヤバイ。 さっ、と顔を俯かせて目をぎゅっと閉じた。 熱いモノが零れ落ちてこないように。 「、」 いきなり名前を呼ばれてびっくりして、思わず顔を上げてアベを見てしまった。 「ア、アベ、今名前・・・」 「・・・、」 目から熱いモノが零れ落ちた。 フラれた元彼氏にもこんな優しく呼ばれた事なんかない。 「・・・アイツなんか忘れろよ」 「・・・ア、」 「俺にしとけ」 |