ずご、と紙パック(ちなみに味はカフェオレだ、オススメ)を鳴らしてしまいばれたか、と思ったけれど二人にはばれていないようでとりあえず一安心だ。廊下は暑いからできれば早くクーラーの効いている教室に入りたい(私立高校万歳)けれど私の願いはまだまだ叶わなさそうだ。あー暑い。というかさっきから中は全く進展していない気がする。早くしろ。

「私、高瀬くんが、す、好きです付き合って下さい!!」

(やっと言ったか)この声は学年一美人で有名な佐倉さんだ。ちらりと教室を覗いてみたら(好奇心には叶わない)それは確かに佐倉さんで茶色い長い髪をこれまたお上品なくるくるかーるにしている。膝上10センチ、化粧もバッチリ唇もグロスを塗って普通の男子なら告白されたら即オッケーだろう。女の私でもかわいいと思うのだ、男子にはたまらないに違いない。しかも相手は高瀬だ。高瀬準太。我が桐青高校の名門野球部のエースピッチャー。しかも容姿は抜群で全校生徒の女子生徒の視線を集めていると言っても過言ではない。すらりとした身長に綺麗な黒髪。垂れ目で笑い上戸(らしい)で笑った顔が素敵!もうパーフェクト人間!・・・とこの前ミーハーな高瀬ファンが熱く語っているのを聞いた。(もちろん語尾にハートマークが付きまくっていた)

高瀬と佐倉さんが付き合ったらミーハーな高瀬ファンは泣いちゃうだろうなー。でも佐倉さんなら定番の妬んだ女子からの呼び出しとかも喰らわずに付き合っていけそうだ。何てったってお似合いだから。ベストカップルだ。(ひゅーひゅー)(なんか私凄い悲しい)

「高瀬くん、へ、返事を・・・」

いつまでもだんまりな高瀬に痺れを切らしたのか佐倉さんが促した。きっと佐倉さんは自信があるのだろう、多少吃りながら聞いているが声は自信に満ち溢れている。(気がする)確かに事あるごとに高瀬に話しかけているところを見たことがある。(ちなみに高瀬と私は同じクラスで席は前後だ)

だからかわからないが私は媚びを売る女子達に嫌悪感を抱いている。もちろん私は媚びたりなんかしない。そこまで安い女じゃないと信じてる。理由は高瀬に話しかけてくる女子はみんな媚びているからだ。むしろあんな甘いぶりぶりな声、どうやったらだせるのか私は知りたい。

「ごめん」

あれ、もしかして高瀬フッた?うそ、もったいないんじゃない?馬鹿だなぁ高瀬。女見る目ないんじゃないの?

「あ、うん、ごめんね!私こそいきなりっ!」
「ごめん」
「じゃあ、野球頑張ってね!」

そう言って佐倉さんは教室から走り出て行った。きっと泣いていたんだろうな。なのに高瀬の前ではなんともないようなフリして。ちょーいい子じゃん。あーあ、高瀬ほんと見る目ない!

「高瀬くん見る目なーい」
「・・・いつからいたんだよ」
「高瀬くん、ちょっといいかな?って声かけられてる時からでーす」
「おまえそれ一部始終じゃん」
「教室なんかで告白する方が悪いよ」

教室に一歩踏み入れたらクーラーの冷たい風が吹いてきてぶるりと鳥肌が立った。まだ残っているカフェオレを啜るとまた音が鳴った。

「もしかして廊下で鳴ってた音っておまえか」
「・・・そうかもしれないし違うかもしれない」

あちゃー、やっぱり聞こえてたのか。まぁ気にしないからいいんだけどね!

「っていうか何で断ったわけ?佐倉さんめっちゃかわいいのに」
「おま、かわいいからって簡単にオーケーしねーよ」

そうなんだ、男ってみんな簡単にオーケーするかと思ってたよ!と高瀬に告げるとため息をつかれた。(失礼なやつだ!)

「じゃあ高瀬ってどんな子が好きなのさ」
「・・・さあ」
「隠さなくていーじゃん!水臭いなあ」

えっと高瀬は、かわいくて黒髪で目がぱっちりしてて性格よくてセーラー服が似合ってチョコレートとか甘いものが好きなふわっとした淡いピンク色の似合うかわいい女の子が好きそうだよね!それで高瀬の事は恥じらって高瀬くん、もしくは頑張って準太くん、って呼ぶような子!

そう一気に言ってやったらまた高瀬はため息をついた。(ホント失礼なやつだ)カフェオレがまたずごっと鳴った。あ、無くなっちゃった。近くにあったごみ箱に投げ捨てた。(ナイッシュー)

「高瀬好きな子はいるわけ?」
「・・・は?」
「いないの?」
「・・・」

ホント嘘つくの下手くそ。沈黙は肯定ってよく言うじゃん。

「いるんだ〜」
「ニヤニヤ笑うなよ!」
「いーやぁ〜別に〜」
「・・・」
「(かわいいなこいつ)告白しないの?」
「・・・できねー」
「なんでー」
「そーゆーやつじゃないから」
「(どんなやつだよ!)でも高瀬に告白されてコロッといかない女の子なんかな
かなかいないんじゃない?」
「・・・」
「試しにさ、言ってみなよ好きって!」

ったく女々しいな!恋するとみんなこんな女々しい感じになるのか!恋する少年か!

「好きだ」
「は?」

何言っちゃってんだこの人は。いきなり人に向かって好きとか。だからそーゆーことは好きな子に言えって言ってるでしょー!?

「好きだ」
「だから、そーゆーことは好きな子に、」
「だからが好きなんだよ」
「・・・」

まさかまさかありえないアンビリーバボー!高瀬が?私を?ありえない!うわ、こんなとこ見られたら高瀬ファンに呼び出される!ありえなーい!!

「オイ、」
「じゃ、私帰るから!またね高瀬ー!」
「待てよ!」

がしっと腕を掴まれて振りほどこうにもほどけなかった。くそう、これが体格の差か・・・。ひょろ長いくせに、やっぱり男なんだ高瀬も。(しかも野球部だし)

「逃げんなよ、つーか無理だっただろ」
「に、げてないよ(無理とかいうな!)」
「うそ言うなよ」
「わー!も、離してっ!!」

バシッとグーで高瀬の腹(見事に決まった。ホントごめん高瀬)にボディーブローを決め(てしまい)逃げた。一目散に、逃げた。

「て、めっ・・・まちやがれっ・・・!」

教室から苦しそうな高瀬の声が聞こえてきたけど無視して逃げた。ごめん高瀬マジごめん、だってだってだって!



a piacere



(どうしよう顔熱い!!)(あ、のやろ・・・!覚えてろ、よ・・・!)