「土方さん、いらっしゃい」
「いつもの頼む」


此処は小さい団子屋さんだけど真選組屯所から近いところにあるからか、毎日隊士の人達が来てくれていつもワイワイ賑わっている。(というか隊士さんがいると一般の人達がなかなか入ってこない)土方さんもその中の一人で、よく来てはいつもの団子セットを頼んで煙草を吹かして帰っていく。


「お待たせしましたー」
「おォ」


そう言って土方さんは制服からマイマヨ(小さいサイズだ)を取り出して団子に勢いよく全部かけた。土方さんいわくこれでも全然足りないらしいけどこっちとしては見てて胸やけしてくる。というか気持ち悪い、とか以前に店で出された物にマヨネーズをかけるとか喧嘩売っているんだろうか。


「土方さん、今日沖田さんはどうしたんですか?」
「また気付いたらいなくなってた」


あの野郎、と青筋をたてながら呟いた土方さんの横顔を見て私は先程まで(正しくは土方さんが此処に来るのを見つけるまで)今土方さんの座っている所でのんびりお茶を啜っていましたよ、という情報を胸に秘めておくことにする。言ったところで沖田さんは上手く逃げるのだろうけど店自慢の団子にマヨネーズを厭味なくらいかける土方さんへのささやかな反抗だ。


「たいへんですねー」
「なんだその棒読みは、おまえ何か知ってんだろ」
「しーりませんよー、あ、それより土方さんどーですその団子、私が作ったんですよ」
「マヨネーズをかけてまずいなんてありえねェ」
「・・・味音痴が」
「あァ?」


舌打ちをしながら苛立ちを隠すようにぐいっ、とお茶を呷った土方さんの横顔を見て、嗚呼かっこいい、なんて。一目惚れだった。初めて店に来たときの事をよく覚えている。目を奪われた。すらりとした背格好、骨張った大きな手、射るような眼、土方十四郎、全てに私の心は囚われた。


「じゃあな」
「ありがとうございましたー」


けれどもあの人は泣く子も黙る真選組の副長、私はしがない団子屋の娘。身分違いにも程がある。だから私はこうして店から去っていく土方さんの後ろ姿を見つめる事しかできないのだ。



姫君とナイトの失踪



(いつの間にかこの距離感に満足していた)