そろりと襖を開ける。
音を立てないように、そろり、とばれないように。

途中で引っかかるかと思いきや、音もなく滑らかに開いたそれを見て、口端をクッとあげる。
流石、副長の部屋だけはある。一歩部屋に入ってそっと閉めた。
部屋に副長はいない。

好都合だ、

また一歩進んだ。
煙草の香りが渦巻く部屋を見渡す・・・換気していないな、これ。

「何やってんだ」

襖を開けた状態の格好で副長、トシが立っていた。

「今晩和、・・・トシ」

パシンとわざと音を立てて襖を閉めたトシは煙草をくわえて近づいてくる。

「何やってんだ、お前」
「さぁ、何でしょう?」
「・・・ばれてねぇとでも思ってんのか?」

眉をしかめ私の立つ場所から何歩か手前で立ち止まり私を見下ろした。
いつもは優しい目で私を見下ろして、唇を落として私の頭を大きな手で撫でてくれたのに。

今では恐ろしい恐ろしい双眼で私を見下ろしている。
冷たい、目。まるで氷のよう。

私も見つめ返す。見つめると言うより睨むに近いけど。
あの、優しい幸せな時を刻んだ思い出を忘れるように一度目をぎゅ、とつむった。
優しく笑うトシの幻影を振り払う。しょうがないじゃない、どこかで振り払いたくないと訴える自分に言い聞かせる。
こんな結果のストーリーを作ったのは紛れもなく私なのだから。

「ばれるって?」

トシから目を離さないまま問い返す。嫌みに口端を上げて。
私の言葉を聞くとトシは細めていた目を更に細めた。
鋭く、相手を掴んで離さないような。

「高杉晋助とつながっているのはわかってる」
「私が?」
「お前しか、いないだろう」

ニコ、と笑ってやった。自分の中で最高の笑顔で。

「・・・」
「なぁに?」
「・・・言いたいことは」
「ばれてたのね、いつから?」

ばれているなんてしっていたけれど。

「・・・前からだ、それで」
「私をトシの女にすることで私に油断させて・・・ってわけね?」
「・・・」
「ふふ、じゃあお互い様ってわけね」
「そうだな、お前も俺も、騙しあってたって訳だ」
「可笑しい話ね」

ふふ、と笑った。トシも口端を少し上げて笑った。
けれどお互い目は笑っていない。

「それでも、私はトシのこと本気で好きだったのよ」
「・・・俺も好きだったよ」

どうあがいても過去形なのが悲しいけれど。

「トシ」
「何だ」

私は一歩、トシに近づく。嗚呼、やっぱり綺麗な顔。

「最後に、キスして」

トシの手が私に伸びてきて引き寄せた。嗚呼、暖かいなあ。
もう、この暖かさを感じることは出来ないのだけど。

「さようなら、トシ」

ずっとずっと、愛してる、そう呟いて、




バッドエンドに何を歌うか



・・・」



(小さく呟かれたその声は、私には届かない)