「ねー!知ってた?沖田くんって付き合ってるんだって!」 さよなら、私の初恋。 今日の授業の始まる前の短い休み時間。 椅子に座って次の授業の用意をしていたら突然耳にはいってきたクラスメートの会話。 その内容は信じられなくて、信じたくないものだった。 沖田くんは私と同じクラスで隣どおしだったから結構喋る方だった。 剣道部員で授業中はたいてい寝ていて土方くんをからかう時の沖田くんの目は輝いてた。 (学校きてる時で1番楽しそうだった) それで凄いSで。 そして私の初恋の人。 そんな沖田くんがこの学校の誰かと付き合ってるらしい。 嗚呼、長かった初恋片思いも今日幕を閉じた。 不思議と会話を聞いたとき哀しくはなかった。 そんなに好きじゃなかったんだろうか。 数時間経った今でも哀しくはない。 (私の想いはそんなものだったんだろうか) 放課後の教室。夕日色に染まった教室の自分の席でぼんやりそんな事を考えていた。 そろそろ帰ろう、と思って教室を出た。 廊下に人気は無く、吹奏楽部のフルートの奏でるシチリアーノが淋しく静かに響いていた。 「哀しい、なあ」 静かな、哀しいメロディを聞いて呟いた。 哀しいメロディを聞いていたら哀しくなるかと思って呟いたのだけど、逆効果だった。 そのまま学校を出ていつもの変わらない通学路を通って駅に着いた。 かばんから定期を取り出す。 「、」 そのまま改札を通らせてほしかった。間違えるはずのない声に振り向く。 「沖田くん、」 やっぱりそこには、 「今から帰りかィ?」 「うん、沖田くんは部活?」 「そうでさァ、たまにはでてやらねーと」 「期待のエースだもんね」 「まぁねィ」 ハハ、と笑う沖田くんを見たら胸がズキンとした。(いたい、いたい) 「途中まで一緒に帰りやしょ」 「うん」 そして改札を通ってちょうどよく来た電車に乗った。 電車は人が多くて酸素が薄い気がした。 (それとも沖田くんが近くにいるから?)(もう私沖田くんのこと好きじゃないはずなのに) アナウンスが次の停車駅を告げる。 電車に乗る前はいろいろ話していたのに今は何も話さないでただ吊り革につかまるだけだった。 沖田くんはびゅんびゅん通り過ぎていく外を見ていた。 その横顔を見ていることも辛くなって私は吊り革をぎゅ、とにぎりしめて俯いていた。 アナウンスが次の駅名を告げた。 「、」 「なあに、沖田くん」 「次、何駅?」 ぼんやりしてたら聞き逃したらしい。 「終点の一個前だよ」 「ありがと」 沖田くんは短く礼を言ってまた外を見る。 また電車が次の停車駅を告げた。 電車の速度が落ちる。 ドアが開いて沖田くんが振り返った。 「じゃあここだから」 「あぁ、うん」 「じゃーね」 「じゃーね」 そう言って沖田くんは電車を降りていった。 振り返ることもなく、行ってしまった。 きっとこれから彼女にメールしたりするんだろうな。 また電車は走り出して数分後に終点についた。 人の波に呑まれて押されるように改札から出た。 家までの薄暗い細い路地を通って思う。 今ここで私が死んだら。 通り魔に包丁でぐさりと刺されて血がどくどく流れて誰にも気付かれないで死んで、 明日通勤する人に発見されたら。 自分で舌を噛み切って死んだら。 ううん、とりあえず、今私が死んだら。 死んだらきっと明日の新聞やニュースに出るんだ。 『銀魂高校、さんが昨夜路地で亡くなっているのが発見されました。』 とか朝のニュースのコメンテーターに 『物騒な世の中になりましたね、』 とか言われるんだ。高校にも取材が言って友達が 『おとなしくて、まさかこんな事になるなんて、』って言って泣いて。 それでちょっと世間を騒がすんだ、沖田くんのせいで。 そう、私がこんな物騒な事を考えているのは沖田くんのせい。 もし私がホントに死んだら、と最後に話したのは俺だ、最後の言葉は『じゃーね』で。 もし俺がを家まで送ってやったらは死ぬことはなかったんじゃないか、 とか思ってくれるかな、なんて考えた。きっと沖田くんは思ってくれるだろう。 優しい人だから。 あぁ、なんだ私、こんな沖田くんの事を考えているなんて、なんだ、なんだ私、 (まだ諦めきれてないんじゃない) |